ものがたり

エポペ Epopée: スナックで「美しい冒険」

Epopée:Beautiful Adventure at Japanese Style Bar

 福岡市の西中洲に「メンバーズ・エポペ」という店名のスナックがある。中州・西中洲といえば、福岡の「夜の街」。昨今のコロナ禍で経営が立ち行かなくなっている店も多い。その中でメンバーズ・エポペはキリスト教の精神にのっとり「中州のサラリーマンやキャリアウーマンの心に寄り添い、温かい友情をはぐくむ」とのビジョンで店を運営している。このお店を支え、育てるために奮闘している「エポペを育てる会」代表の荒川彰さんの歩みと、メンバーズ・エポペの歩みを紹介する。

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カウンターに飾られているマリアの絵

 メンバーズ・エポペは西中洲の飲食店が入るビルの一角にある小さなスナック。5人ほどが座れるカウンター席と6人ほどが座れるボックス席がある。現在はコロナ対策のために、感染防止シートと仕切りを使用して、密集しないように客数を制限し、注意しながら営業を続けている。

 

 「エポペを育てる会」代表の荒川彰さん(64歳)はカトリック信者で福岡の私立中学高等学校で30年以上教員として働いてきた。スナックの魅力について荒川さんは「適度なお酒は精神を解放してくれ、その場の雰囲気を決定づけるママの存在は大きいですね。おしゃべりなのに人の話も聞いているというのは、彼女たちの不思議な才能かもしれませんね」と語る。

 

 一方、メンバーズ・エポペの経営者、眞弓ママはクリスチャンではない。3年前に新しくお店を出すにあたり、「なにかいい名前がないか」と相談されたことから、荒川さんが「エポペEpopée」の名前を提案した。「エポペ」(フランス語で「美しい冒険」の意)と聞けば、「東京・新宿のジョルジュ・ネラン神父が設立したエポペ」を思い起こす人も多いだろう。新宿のエポペは2011年に閉店しており、この西中洲の「メンバーズ・エポペ」は直接の系列店ではないが、荒川さんの中にネラン神父を通して蒔かれた「冒険」の種が芽生え、動き始めたお店ともいえる。荒川さんの思いを聞いた眞弓ママは、通っていた幼稚園がカトリック幼稚園であったことや、卒園後もカトリック司祭やシスター(女子修道者)にお世話になったこともあり、この名前が気に入り、新しく出店するスナックの名前とした。

 

 フランス出身のネラン神父(1920~2011)は1952年に宣教師として来日。東京大学、慶応義塾大学、立教大学などの非常勤講師を務め、神学研究、翻訳などで幅広く活躍した。フランスに留学した遠藤周作を世話し、来日後も生涯にわたって遠藤周作と親交があった。ネラン神父がサラリーマンとの本音の出会いを求めて、教え子たちや教会関係者から出資を募り東京・新宿区歌舞伎町にスナックバー・エポペを開設したのが1980年。荒川さんも出資者の一人だ。

 

メンバーズ・エポぺのカウンター席。荒川彰さん(右)と眞弓ママ(左)

 荒川さんとネラン神父の出会いは1975年にさかのぼる。当時、大学生だった荒川さんはネラン神父指導の東京大学教養学部の聖書研究会に2年間参加した。7歳でカトリックの洗礼を受けた荒川さんはその時のことを次のように振り返る。「それまでどちらかというと、理性よりも霊性を重んじる宗教教育を受けてきた私には、ネラン神父様の徹底的な理性への信頼に基づく宗教教育はまるで違う宗教であるかのようでした。ちょうどそのころ、『宗教と科学』の問題で悩み始めていた私には、理性的なキリスト教理解が絶対的に必要でした。」その後も、直接に話す機会はそれほどなくとも、ネラン神父の著書を通して、荒川さんは「理性と霊性」「宗教と科学」についての調和を見出し、自身の信仰生活を深めてきた。「新宿のエポペには一度だけ小さな息子を連れて行ったことがあります。その時神父様はとても困っておられました」と荒川さんは微笑ましい思い出を語る。荒川さんは現在、私立学校で非常勤講師として勤めながら、学校の保護者のための父親聖書研究会や母親聖書研究会を担当している。そのような歩みの中で、自分の信仰理解がネラン神父に負っていることを再確認している。

 

 さて、福岡の西中洲の「メンバーズ・エポペ」は3年の歩みで、「今はまだ普通のスナックです」と荒川さんは言う。今回の新型コロナ感染症による休業要請を受けて、当初のビジョンを見つめ直した。そこで、経営者が女性なので「マリアのような心をもってお客さまに接する」というモットーを掲げることにした。マリアのような心とは?荒川さんは「理想の女性と考えての表現で、特別なことはないけど…。あえて言えば、『聖霊の続唱』に出てくる特徴のすべて」と言う。「聖霊の続唱」はカトリック教会で歌われる聖歌だが、例えば次のような聖霊の特徴をあらわす歌詞が出てくる。「やさしい心の友、さわやかな憩い、ゆるぐことのないよりどころ。苦しむ時の励まし、暑さの安らい、憂いの時の慰め。」エポペの店内の雰囲気、眞弓ママの姿を見ていれば、「うんうん」と納得できる表現だ。

 

 カトリック信者の荒川さんの思いに共鳴し、クリスチャンでないママが経営する「メンバーズ・エポペ」。荒川さんは「キリスト教に興味はあるが、わざわざ教会の門をたたく気にはなれないという人たちにも扉を開いていますので、そのような方はスタッフに声をかけてください」と話す。眞弓ママは、「どんな方でもみんなみんなウェルカム。みんなの憩いの場になれば良いですよね」と飾り気のない明るい声で答えてくれた。さあ、この「美しい冒険」が向かう先とは。そこで出会う人々の未来が楽しみでもある。

 


 

※現在、「メンバーズ・エポペ」はクラウドファンディングを行っています。【締切7月16日】(外部リンク)⇒ キリスト教の精神にのっとったスナック・エポペを応援しよう



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